海外の「流行語」から考える、日本人と英語

堤谷 孝人

2015年12月1日に発表された「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞は「爆買い」と「トリプルスリー」でした。納得した、意外だったなど人それぞれに感想があったかと思います。

英語の「流行語」から考える、日本人と英語

 

毎年、話題になる流行語大賞。実は、日本だけでなく、英語圏でも発表されていることをご存じでしょうか。今回は、イギリスとアメリカの流行語を紹介します。

 

 

 

イギリスの流行語は絵文字!?

 

イギリスの流行語大賞の起源は15世紀末にさかのぼり、大学出版局としては最古の歴史を持つ、オックスフォード大学出版局の辞典部門である、オックスフォード ディクショナリー(Oxford Dictionaries)が毎年11月に発表しています。オックスフォード英語辞典をはじめとする辞書・聖書が有名ですね。

 

 

2015年

 

Face with Tears of Joy 「Face with Tears of Joy」

 

まさかの絵文字です。日本の「絵文字」という単語は、英語圏でもそのまま「emoji」として使われています。SNSが流行する中で、絵文字の使用頻度が増え、その中でも特にこの「喜びの涙を流す顔」がイギリス(ならびにアメリカ)でよく使われたとのこと。コミュニケーションがグローバルになってきていることが実感できます。

 

 

2014年

 

vape 「電子タバコ」

 

火を使わず、燃焼によるタールや一酸化炭素などが生じず副流煙も出ない電子タバコは、欧米を中心に世界で急速に市場を広げています。日本では、日本たばこ産業株式会社(JT)が販売。この受賞でvapeの流行の勢いが見て取れます。あなたの身近な人も持っているかも?

 

 

2013年

 

selfie 「自撮り」

 

SNSでよく見る、自らが被写体となってスマートフォンやウェブカメラで撮影した写真、いわゆる自撮り写真のこと。「selfie(セルフィー)」という単語は2002年にあるチャットで初めて使われたようですが、使用頻度が急増した2013年に受賞しました。すっかり日本でも若い方を中心に定着した単語ですね。

 

 

2012年

 

omnishambles 「滅茶苦茶な」

 

「オムニシャンブルズ」と発音します。「omni=すべて」と「shambles=大混乱」をくっつけた英BBCテレビ発案の造語で、この年に起こったロンドン五輪に関する失言や不適切発言、欧州金融危機などによる混乱状態ならびに対処の誤りを表しています。

 

 

2011年

 

squeezed middle 「搾取された中間層」

 

景気減速時にインフレや給与凍結などの影響を受けやすく困窮する層や階級を指し、その年の経済状況を反映しています。「搾取された」より「圧迫された」のほうが意味が通るかもしれません。

 

 

 

アメリカの流行語もSNSの影響が色濃い

 

英語の「流行語」から考える、日本人と英語

 

アメリカでは流行語(Word of the Year)を発表している団体がいくつかありますが、最も歴史が長いAmerican Dialect Society(ADS)が選んだ流行語を紹介します。この賞は、毎年1月に前年の流行語を発表しています。

 

 

2015年

 

They 「単数の(singular)They」

 

Theyはご存じの通り「彼ら、彼女ら」という意味の三人称複数を表現する代名詞です。「単数の(singular)」という補足が付いているところに、アメリカ社会の動向を見ることができます。

 

アメリカでは、人権が大きな社会問題になっています。性的マイノリティーについても同様。例えば、ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスセクシャルといった人々を指すときに、「He」(彼)や「She」(彼女)のような性別を特定する単語でよいのか?といった議論がなされていました。英語には、性別を特定しない三人称単数の代名詞は無いため、性別を特定しない単数の「They」が使われるようになり、この年の流行語となりました。 

 

 

2014年

 

#blacklivesmatter 「#黒人の命は重要」

 

「Black」「lives」「matter」が#ハッシュタグ用にひと続きになった単語です。日本でも報道された、米ミズーリ州での白人警官による黒人青年射殺事件。この事件での黒人に対する差別的扱いが大きな社会問題となり、こうした差別行為への抗議として、SNSでこのハッシュタグが拡散されました。SNSの影響力を反映し、ハッシュタグ賞が設けられた年でもありました。

 

 

2013年

 

because 「理由」

 

becauseは「なぜならば〜」と訳し、この後に理由となる文章が入る、もしくは「because of~」といったフレーズの後に理由となる言葉が入ります。しかし、ルールを無視して、「Because like.」のように、すぐ後に名詞や形容詞などを入れる使われ方が流行りました。特に、SNSや携帯メールなどの短いメッセージで多用されたようです。

 

 

2012年

 

hashtag 「# , ハッシュタグ」

 

キーワードごとに閲覧がしやすく、共通の話題で盛り上がれる「#(ハッシュタグ)」がこの年、流行しました。元々はTwitterの1ユーザーが提案して利用され始めたローカルルールでしたが、多くのユーザーへ広がりを見せた結果、Twitterが公式にサポートを開始。現在ハッシュタグはTwitter以外にも、InstagramやFacebookなど、多くのSNSサービスで幅広く利用されています。2014年は、これを用いた「#blacklivesmatter」が選ばれています。

 

 

2011年

 

app 「アプリ」

 

applicationの略。iPhoneの広告で使われた「There's an app for that.」(それ用のアプリがある)というフレーズ、ならびにアプリ販売の「App Store」の流行で注目を集め、選ばれました。

 

 

 

なぜ、日本人は英語が苦手なのか

 

ここまで、イギリスとアメリカの過去5年の流行語を見ていただきました。気づいた方もいるかと思いますが、どれも表現としては実にシンプルなものばかり。日本の過去の受賞例を見ると「お・も・て・な・し」「なでしこジャパン」など、表現的・表記的に比較的複雑なものが多く感じます。 

 

英語の流行語は、使われ方こそ斬新なものはあれど、表現的・表記的が複雑ではない理由は、英語自体がシンプルな言語だからと考えられます。

 

日本人は英語が苦手なのではなく、表現や表記が複雑な言語に慣れ親しんでいるため、かえってシンプルな言語はとっつきにくい。すなわち、日本語でのコミュニケーション能力が高すぎるせいで英語を難しいと感じているのです。

 

いつもの日本語を話す調子で、頭の中で考えたことを英語で表現しようとすると、言葉が見つからなかったり、細かいニュアンスまで言い表す言葉が見当たらなかったりもします。

 

 こういったことから、英語で話す時は、英語ならではのシンプルな表現を心掛けた方が良いでしょう。その段階をクリアした上で、よりロジカルな表現を心掛けるようにすると、日本人の英語力は格段に向上するでしょう。

 

 

» Oxford Dictionaries

» American Dialect Society

 

 

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