今すぐ変えよう。Apple元社員が教える英語の鍛え方

よしだみすず

米Appleに勤務するなかで試行錯誤して英語を磨き上げた松井氏。その経験から、英語力を伸ばすための独自のやり方に気が付いたそう。その3つのポイントを教えてもらいました。

今すぐ変えよう。Apple元社員が教える英語の鍛え方

 

ポイント1:日本人は、『覚える浸る使う』をループさせるべし

 

学生時代の海外留学、そして日・米Appleでの16年間はつねに英語を武器にして戦ってこられた松井さん(参照:元社員が語る! 米Appleで必要になる英語レベルとは)ですが、これまでのご経験から、英語力を身につけるために大切なことはなんだとお考えでしょうか?

 

「英語上達への最短距離は、まず“暗記”です。そして次に“インプット”、最後に“アウトプット”すること。この3つをとにかくループさせて繰り返すことだと思っています。

 

“覚える→浸る→使う”この一連をループして積み上げていくこと。螺旋階段のようにちょっとずつちょっとずつしか上がらないし、上がれないので、急にグーンと上達することはありません。

 

でも、とにかくめげないで少しずつレベルを上げならが繰り返すこと。それしかないと僕は思います」

 

暗記はシンプルな勉強法とはいえ、テストや入試をイメージしてしまって苦手意識が先行する方も多いと思うのですが、継続させるためにはどうしたらいいのでしょうか?

 

「それにはいい方法があります。ただダラダラ続けるのではなく、ある程度勢いをつけてやることです。

 

例えば単語なら1日10個とか20個とか決めて、とりあえず決めた個数は必ず何度も目を通す。

 

もし市販の英単語帳を使うとしたら、1ページを完璧に覚えようとしないで、8割覚えたら次のページに進むようにするんです。人間は覚えられない苦手な単語が何度も出てくるとそこで嫌気がさしてしまうものなんですよね。

 

だから最初から全部完璧に覚えようとはしないことが大切です。そうして同じ本をだいたい3周〜5周くらい繰り返せば、大概マスターしていると思いますよ」

 

英単語は受験などでたくさん覚えたという経験があっても、それを使う機会が訪れなかったために忘れてしまったり、使い方がわからないこともよく起こり得ると思うのですが…?

 

「だから次は“浸る”なんです。それは読む、聞くこと。小説でも雑誌でも自分の好きなものでいいから、どんどん読みましょう! CNNなどのラジオでも、映画でも見ながらとにかく英語をインプット、インプット!

 

映画は、最初は日本語字幕をONにして、ある程度物語の内容を把握したら次は英語の字幕で字幕をONにして見ることをおすすめします。そして最後は字幕なしで。好きな映画なら、何度見ても飽きないので一石二鳥ですよね。

 

それを普段から続けていると、“暗記”で覚えた単語がさまざまなシーンで出てくるようになり、『あ、これはこう使うのか』と会話とセットになって理解できるようになるし、記憶にも定着します。

 

そして最後に“使う”ですが、これは“暗記”し、“浸った”ものを実際に自分で使ってみるということです。そうすると微妙に使い方やニュアンスを間違って認識していることがわかるはずです。

 

例えば、幼児が母国語を覚える時だって同じですよね。絵本やテレビで覚えた単語を実際に使ってみて、何度も修正されながら正しい使い方が身についていきます。

 

アウトプットの仕方としては、英語初心者でしたらオンライン英会話などもありだと思います。ネイティブの人とひたすら話す機会を作ってください。あとは作文や手紙などを書いてネイティブにチェックしてもらうのもいいですね。

 

人は書けないことはしゃべれないですし、書くと文法の間違いにも気づきます。もちろん、最初はテキトーでいいんですよ。辞書を引くのが大変だったら、PCの翻訳ソフトかなんかに手伝ってもらいながらでも、OKです」

 

 

ポイント2:日本人は、日本語を介さないで英語を覚えるべき

今すぐ変えよう。Apple元社員が教える英語の鍛え方

 

 

自分の考えや想いをアウトプットするのは、日本人にとってあまり得意ではない上に英語でとなるとさらにハードルが上がると思うのですが、躊躇することなく『話せる英語』を手に入れるためには、他にどんなことが必要なんでしょうか?

 

「英語はまず発音なんです。それができると正しい音で読めるようにもなりますから。だから、発音矯正は、早い時期にやったほうがいいと思います。

 

僕は海外留学に行く機会があったから、そこで修正ができたけれど、ネイティブと触れ合うことができる環境にあるのであれば、まずはぜったいに発音を矯正すべきです!」

 

たとえばそれは留学などを経験せず、日本で周りに海外の友人や知人がいない環境でも、矯正することは可能なのでしょうか?

 

「もちろんです。いま、フォニックスという学習法がありますよね。これは非常におすすめです。

 

僕は息子が移住した時に教材で使っているのを聞いて初めて知ったのですが、よくできていると思いました。もっと早く出会いたかったな、と感心したんです。

 

なぜなら、これで覚えると、見たことのない単語を憶測で発音しても間違っていないことが多いんです。フォニックスで英単語の75%は正しく発音できると言われています。『残りの25%読めないならダメじゃん』と文句を言っている人もいるようですが、僕はそれだけ読めればとってもいいと思いますよ」

 

フォニックス英語は、綴り字と発音との間に規則性を明示し、正しい読み方の学習を容易にさせる方法として最近は日本でも注目されていますが、具体的にはどの点が役に立つと松井さんは感じられたんですか? 

 

「学校では最初にアルファベットをA(エー)B(ビー)C(シー)と覚えますよね。でも実はA(エー)B(ビー)C(シー)って、アルファベットの名前であって、発音ではないんです。

 

フォニックスではAは『ア』、Bは『ブッ』、Cは『クッ』、といったように、それぞれの『音」を教えていくんです。そして文字が繋がった場合の規則性を教えてくれるので、発音のマッピングが頭の中で正しく整理されてできるようになるんです。

 

音楽に合わせながら 『ェアェアェア… apple』なんて数え唄が子ども向けの教材としてたくさんあるんですが、そういうのを単純にやるだけでも全然違うと思いますよ。

 

それから、日本人は知らない単語を見た時に変なローマ字読みというかスペルを当て字で読むクセみたいなものがあるでしょう? 『climate』という単語を見たときに、これは『クライメイト」って単語だ、えーっと『ラ」はLだっけRだっけ? と頭で思い描いたりしますよね。

これが良くないんです。

 

最初にローマ字カタカナ読みの『クライメイト』って覚えてしまうがゆえに、それがLなのかRなのかわからなくなってしまうんです。でも、最初から英語の音として覚えておけばそんな問題は起こりません。

 

さらにこのカタカナ式の悪しき発音法では、余計なところに母音が入ってしまう弊害があるんです。

 

たとえば、『Sky』という単語がありますよね。これはカタカナ読みをすると、『スー(u)・カ(a)ー・イ(i)ー』と母音3つ入ってしまいますが、正しい発音ではひとつも母音は入っていません。

 

強いて言えばこの場合はy(ワイ)がi(アイ)みたいな発音だから母音はひとつと言えますが、それにしたって本来ないところにふたつも母音を追加されてしまうので、どうにもなかなか通じなくなってしまいます。

 

それからこうやってカタカナ読みで英単語を覚えていくと、シラブル、すなわち音節の数を間違って覚えてしまうさらに重大な弊害があります。

 

本来『Sky』は1音節なのに3音節になったり、『tunnel』を『ト・ン・ネ・ル』と覚えれば4音節になるけれど、本当は、『tun-nel』と発音する2音節ですし、『energy』は『エネルギー』と読みがちですが、正しくは『en-er-gy』と3音節ですし…。これでは混乱しますし、相手にも正しく伝わりません。日本人が言う『マクドナルド」は本当に通じません。だって『McDonalds』 って『Mc-do-nalds』っていう3音節ですから、もうリズムがまるで狂ってしまうんです。

 

イギリス英語とアメリカ英語は随分違う。それでもちゃんと相手に言葉が伝わるのは、このシラブルの数がしっかり合っているからなんです。

 

これらの『そもそも発音が正しくない』、『余計な母音が入る』、『リズムが間違っている』、の三重苦を抱えてしまうと、やっぱりどうしても「英語は難しい」となってしまいます。

 

だから、英語は正しい発音を最初から覚えることが大切なんです。

 

 

ポイント3:日本人は、英語脳を鍛えるべし

 

今すぐ変えよう。Apple元社員が教える英語の鍛え方

 

 

その他にも英語を学ぶ上で日本人ならではの、ありがち、やりがちな気を付けなければならないポイントというのはありますか?

 

「英語は英語で覚えることです。これは極力、日本語を介さないで英単語を覚えること。日本語での逆引きというのを頭の中でやってしまうと、脳内和訳をしている間に時間が経ってしまい、相手の会話が流れてついていけなくなるという経験があったりしませんか? 

 

英単語を英語で説明できるようになるのが一番いいのですが、まだそこまでのチカラがない場合は、自作の英単語カードの裏は日本語ではなく絵を描いて、単語をイメージを直接リンクさせるのはとても良い方法です。僕は自分の子どもにも移住当初、こういう単語帳を作らせました。

 

英語を英語で覚えていくことは一見、遠回りに見えるけれど、英語の同義語はこれ、とリンクが頭の中に形成されてゆくんです。

 

そして、最後にとても重要なのは英語の感覚、世界観を理解することです。

 

たとえば冠詞とかすごく難しいじゃないですか。数えられる名詞とか時制とか、英語には決まりがいろいろありますよね。

 

これって、根本的に日本人と外国人の時間の感覚や、ものの数の捉え方という概念が全然違うところに根ざしているんです。明らかな概念の違いがあるのに、それを日本語に落として文法にするから、なんだか難しくなってしまうし、つねに文法を考えないとしゃべれなくなってしまうんです。

 

感覚を掴んでしてしまえばすごく明快なことなんです。でもそれを日本語にマッピングして覚えようとすると、いつまで経ってもわからない難解なものになってしまうんです。

 

英語のこの手の感覚の獲得でつまずいている人には、『日本人の英語』というマーク・ピーターセン氏の本がおすすめします。英語感覚と言うのはこうなんだ、というのを日本語で本にしたものなんですが、非常にわかりやすく説明してくれています。僕も大学生のときに読んで本当に目からウロコが落ちた思いがしました」

 

 

「日本の教科書、間違ってるぜ問題」を変えていきたい

 

松井さんのお話を聞いていると、スタンダードとされていた英語の学習法はなんだったのか? と疑問に思ってしまうことばかりなのですが、なぜこれほどまでに日本人の英語に対する認識や取り組み方がこじれる形になってしまっているんでしょうか?

 

「それは、日本の英語の教科書にあるかもしれません。今考えてみると、自分の頃の教科書なんて、なんだかけっこうおかしな文章が多かったです。いまはずいぶん改善されているようですが、なんというか、その単元で教える内容にこだわりすぎて、現実には絶対言わない、奇妙な文章を作り出してしまっている感じです。

 

たとえば仮定法過去ってありますよね。そもそもね、仮定法っていうのはだいたい仮定法過去なんです。「ああしとけばこうなったはずだ」ってね。だから最初から仮定法過去を覚えればいいのに、中2くらいの教科書で if 文が出てくると、もう意地でも仮定法過去は使わないで、あえて普通は言わないような言い方をするわけです。

 

だからifってこう使うのか、と変な刷り込みがなされる。そして後から普通の使い方が出てくるんですけど、先に例外的な用法を覚えているものだから、こんがらがってしまうんですよ。

 

でもアメリカの幼児向け絵本を見ると、仮定法過去が最初から出てきているんです(笑)。

 

先ほどもお話ししましたが、そういった「英語ならではの感覚」を理解しないまま、たとえば仮定法過去の時は

 

『if + 主語 + (助)動詞の過去形 ~ ,主語 + would(could, should, might) + 動詞の原形 ~ 』

 

なんて公式みたいに覚えていくと、ちょっと崩した言い方がまったくわからなかったりする。

 

もっとね、根っこから捕まえていかないと、なかなか身についていかないと思うんです。そこを根底から変えていきたいというのもセブ島での語学学校を立ち上げようと思ったきっかけのひとつでもありますね」

 

松井さんがこれまで培ってきたメソッドをその語学学校では教えていただけるそうですね。

 

留学というと欧米を思い浮かべる方も多いと思いますが、語学学校設立の場所にフィリピンのセブ島を選んだ理由というのは、なんだったんですか?

 

「セブ島は、僕が子どものときの日本の雰囲気にとっても似ているんです。経済成長率もどんどん伸びていますので、とにかく活気があります。

 

また現地の先生自身が英語も上手ですし、いい意味でのし上がりたいという情熱も持ち合わせていて、一生懸命で真面目な人が多いんです。

 

そしてなにより、人件費が安いので、ほとんどの授業をマンツーマンレッスンにすることができます。ですからたくさん英語を話せますし場馴れするのにはとってもいい環境なんです。

 

ただ、漫然と喋っていても場慣れ以上を越えられない。だから、根底の部分からカリキュラムを一新させ、単なる思い出作りに終わらない、確実に英語が上達する学校を作りたいと思っています」

 

セブ島での留学は、コストパフォーマンスの面でも満足度が高いと評判のようですね。

 

最後にこれから英語を学びたいと考えているみなさんにメッセージをお願いします。

 

「妻は僕の本社移籍に伴って英語などなにもわからないまま33歳の時に初めて渡米したんですが、今では現地のご家庭を相手に保育園の先生として働くほど上達しています。彼女を見ていると英語をスタートする時期は何歳からでも遅くないんだな、と強く実感します。

 

それに、何度も言いますが、英語ってそんなに大変じゃないんです。アメリカに行けば3歳児だって喋っているんです。正しい学習方法で時間を積めば、絶対に喋れるようになります。

 

まず正しい発音を獲得する。それだけで抵抗感が減りますし、長いスペルを見ただけで心も折れなくなります。英語に対するハードルも下がりますね。さらに正しい音節がわかると、正しいリズムで話せるようになる。そうやって通じるようになっていくんです。

 

僕の息子に言わせると、カタカナ英語やローマ字のほうが、よっぽど難しいそうですよ(笑)」

 

 

前編はこちら:

元社員が語る! 米Appleで必要になる英語レベルとは

 

 

松井博氏

お話をうかがった方:
松井博(まつい・ひろし)氏

神奈川県出身。オハイオ・ウエズリアン大学を卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、2002年に米Apple社でiPodやMacなどのハードウエア製品の品質保証部門のマネージャーとして活躍。2009年同社を退職後は、著書『僕がアップルで学んだこと』、『企業が「帝国化」する』などの執筆活動の傍ら、米国での保育園事業や合気道教室、ウクレレ教室講師など、何足もの草鞋を履きこなすマルチなエンジニア。現在、自身の英語学習経験をもとに、セブ島に英語学校「Brighture English Academy」をローンチすべく奮闘中。

Brighture English Academy(Facebook)

 

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この記事の筆者について

よしだみすず

PROFILE

東京都出身。1児の母。ゴルフ専門誌、情報誌の編集を経て、出産を機にフリーライターに。大学時代に短期留学を経験するも、英語力より脂肪を身につけて帰国。国際社会の波に乗れなかったことを悔やむひとり。息子には同じ轍を踏ませまいと、英語教育について探求中。

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