総合型選抜の対策について、3回にわたってお届けする【実践編】では、実際に総合型選抜で合格した先輩たちの高校時代の取り組みについて紹介しています。いよいよ最終回となる今回は、立教大学コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科に合格した中村汎森さん(東京都・私立高校出身)が登場します。
大学進学は考えず、好きな活動に明け暮れた高校生活
中村さんの高校生活はコロナ禍でスタート。何も新しいことに挑戦できないまま迎えた夏休みに転機が訪れます。それは東京パラリンピックの開会式で披露されたパラアスリートのパフォーマンスでした。
「そこからパラスポーツに興味をもち、高1の秋からパラスポーツのボランティアや体験会に参加しました」(中村さん)
活動を行う中で、中村さんは「パラスポーツヘの理解を深めたい」と友人に伝えますが、なかなか理解してもらえませんでした。そんな思いを父親に相談して勧められたのが、高校生がお互いの活動を発表し合う塾でした。体験会に参加して「ディスカッションをする部活みたい」と居心地のよさを感じて入塾を決めたそうです。
「塾に入ったとはいえ、最初は総合型選抜どころか、大学進学さえ考えていませんでした。大学で何を学びたいかがわからなかったからです。親も大学をゴールにしない方針だったこともあり、3年の春まで受験のことを考えずにパラスポーツのことと生徒会活動に明け暮れていました」(中村さん)
ただし、同時に学校の勉強も怠らなかった中村さん。成績上位をキープし続けたことは、後に進学を考えた時の助けになりました。
大学では説得力のあるディスカッションができていると実感
ボランティア活動を通じて、中村さんにはいくつかの気付きがありました。その一つが「障がいがあってもスポーツに参加したい人がたくさんいること」です。
そこで、高2の文化祭では1人でパラスポーツとの関わり方についてプレゼンテーションを行いました。ただ、その時は、福祉に興味のある人にしか周知することができなかったことが課題として残ります。
次に考えたのが高3時の体育祭に、障がい者と健常者が共に楽しめる「ゆるスポーツ」(※)を取り入れること。障がいを持つ生徒にアンケート調査をし、体育祭実行委員長を自ら務め、自分が考案したゆるスポーツを競技へ加えることに力を注ぎました。ただ、みんなの同意を得るまで、とても険しい道のりだったそうです。
こうした活動を経て、中村さんは高3の6月に進路のことを考え始めます。指定校推薦も検討したものの、自分が高校時代に活動してきたことを深く学べる大学に行きたいと考えた結果、立教大学の自由選抜入試を受けることを決めます。
「総合型選抜に必要な志望理由書では、自分の気持ちの変化が伝わるように意識しましたが、文章量が多くなり、端的にまとめることに苦労しました」(中村さん)
また、「気持ちの変化」が感想文にならないよう客観的な文章を心がけたとのこと。提出書類は第三者目線で塾と親に交互にチェックしてもらい、何度も書き直します。二次試験のプレゼンテーション対策も、親の前でプレゼンテーションし、さらに親と一緒に作成した想定問答集で面接の練習をすることで、自信をもって二次試験に臨めたそうです。
高校時代、友達にパラスポーツの意義を説明しても理解が得られなかった中村さんですが、今では、大学のディスカッションで、説得力をもって自分の意見を述べる力がついていると実感しています。
「以前は、自分の思いを説明するだけの押し付けのような伝え方でしたが、塾の仲間と自分の取り組みについてプレゼンテーションを行う中で、“他者への伝え方”について考えることができるようになった結果だと思います」(中村さん)
「総合型選抜での取り組みは、自分の考えを整理し、将来の自分について構想を立てることができる貴重な機会です」という中村さん。将来への指標がなかった高校入学時とは異なり、確かな目標に向けてより専門的な学びに足を踏み入れました。
※ゆるスポーツ…年齢・性別・運動神経に関わらず誰もが楽しめるスポーツのことで、「スポーツ弱者を、世界からなくす」をスローガンにした「世界ゆるスポーツ協会」が提唱している。
中村さんの合格ポイント
●「他者に伝える力」を鍛える●個人的な活動を自分のコミュニティにも広げ、実践する