スーパーグローバルハイスクール指定校、埼玉県立浦和高等学校の取り組みをうかがいました。
スーパーグローバルハイスクール (SGH) とは
高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とし、外部有識者によるスーパーグローバルハイスクール企画評価会議が審査し適切と認めた当該学校を、文部科学省がスーパーグローバルハイスクールとして指定しています。
創立からおよそ120年の伝統を有する埼玉県立浦和高等学校(以下: 浦高)。
文武両道を体現し、宇宙飛行士の若田光一氏や心臓外科医の天野篤氏をはじめ、各界で活躍する多くのリーダーを輩出してきた。
このたびスーパーグローバルハイスクール(以下: SGH)の指定を受け、総合的な学習の時間を中心に少人数での課題研究に取り組み、姉妹校の英国ウィットギフト校との交流もさらに深めていく。
伝統のグローバル人材教育
「教育の王道を歩みながら、さらに進化させていきたい」と考える杉山剛士校長のもと、浦高ではSGH研究開発委員会の11人の教員を中心に、グローバルリーダーの育成を推進している。杉山校長は「本校で学んだ生徒たちはタフで優しく、共感力のある人間に育っていると自負しています。浦高教育をこれからは世界に向けて発信していきます」と力強く語る。
浦高からは政財界や医療分野などの各界をリードし、世界で活躍する人材が多数巣立っている。東京大学への進学実績が注目されるが、近年では海外の大学へ進学する生徒も現れた。「校歌で『広き宇内に雄飛せん』と謳われるように、本校は昔からグローバル人材の育成を意識していました。生徒たちには世界へ飛び出して本物と出会い、多様で異質な他者に出会う機会を与えたい」。杉山校長はそう話す。
カギとなる東京大学との連携
浦高が目指すのは、幅広い教養と深い洞察力を持ち、世界のどこかを支えることができる、知徳体のバランスの取れたグローバルリーダーの育成だ。
「人類の共存」「持続可能な地球環境」「普遍的価値の探求」という地球規模の課題を研究テーマに据え、総合的な学習の時間を中心に、少人数のゼミ形式による課題研究や論文作成、優秀論文集の作成、研究発表に取り組む。
1年次には「学問研究」を通じて各自が選んだテーマに関する論文をまとめ、判断力や表現力、論理的思考力を養う。2年次には、大学のゼミのような「アドバイザー・グループ」をつくり、担当教員が設定したテーマについて、生徒各自が選んだテーマを調査研究し、その成果を論文にまとめる。SGHではこうした学習方法を発展させ、東京大学との全学的な連携の下で、課題研究テーマに関連する講義を実施する。また、課題研究テーマに関する研究室に在籍する卒業生による論文作成のアドバイスも受けられるようにした。
研究推進のカギとなるのが、東京大学との連携だ。「高大連携ボーイングプログラム」は、ボーイング社が世界的に展開している教育プログラムを、東京大学が浦高と協同で実施しているものだ。昨夏の第1回は航空工学がテーマ。生徒は、東京大学工学部を訪れて、米国ボーイング社とのライブ中継による英語での質疑応答を行ったほか、研究室の見学、未来の飛行機のコンセプトやデザインをグループごとにポスターセッション形式で発表した。第2回は河川工学について、第3回は食文化を通した異文化理解について同様に研究発表を行った。
SGH研究開発委員長を務める野崎亮太先生によれば、浦高では日頃から英語や数学、理科、社会などの科目で、講義形式の授業だけでなく、ディスカッションやディベートを取り入れた授業を展開しているという。このような協調学習を通じて、生徒たちは主体的に学び、課題解決能力を高めている。
英国の姉妹校との連携を強化
姉妹校提携19年目を迎えた英国のパブリックスクール「ウィットギフト校」とも、これからの10年を見据えてさらに人的交流を強化する。今年はまず同校卒業生をTA(Teaching Assistant)として受け入れるほか、日本語を履修している生徒19名を10月に1週間受け入れて浦高生宅にホームステイさせ、授業に参加させる。
一方で、浦高生の短期研修派遣と長期留学派遣の機会も用意。短期研修派遣では、来年3月に鉄道研究会や写真部の生徒18名を派遣して課題研究に取り組ませ、発表の機会を設ける。長期留学派遣は、3年生1名をウィットギフト校の国際バカロレアコースに在籍させ、ディプロマを取得させる。派遣生はケンブリッジ大学などへの進学を視野に入れ、自ら設定した研究テーマに基づいて毎月レポートを提出し、その内容を在校生にも共有する。派遣には評定平均4.3以上、IELTS6.0以上という高い基準が設けられ、日本語と英語による面接で選考する。「長期留学派遣生は毎年1名の枠ですが、今後はその枠を拡大したいと考えています」とSGH研究開発委員・国際交流部責任者の英語科・小河園子先生は話す。
今年7月には、ミシガン州立大学で実施されるサマープログラムに、3年生3名が参加した。生徒たちは「数学とコンピュータ」「数学と芸術」「ゲーム理論と政治学」というセミナーで、各国から集まった学生たちと学び合った。小河先生は「生徒たちは帰国後『これから自分が何を目指して学んでいくべきかが見えた』と目的意識が明確になり、学習に対する動機付けにつながったようです」と喜ぶ。
同窓会も後押しする支援体制
同窓会が設立した「公益法人県立浦和高等学校同窓会奨学財団」は、浦高のSGHを支える組織だ。グローバルリーダー育成を目的とし、主に、ミシガン州立大学のサマーセミナー参加者への助成金交付、ウィットギフト校への留学者への奨学金給付によって、在校生や卒業生の留学を支援する、全国でも例のない支援体制だ。今後は、奨学金による留学枠を拡大し、英国に限らず、米国ハーバード大学などの多くの海外大学への進学を目指せる環境を整えていく。
高校生という多感な時期に世界へ視野を広げ、多様な価値観と出会う。その経験を通じて、競争社会を生き抜くタフな精神が身に付き、他者に共感し、思いやる優しい心が育つ。野崎先生は「地球規模で考えて、埼玉県のため、地域のために貢献できる人材を育てたい。それこそが真のグローバル人材と言えるのではないでしょうか」と話した。