県内トップクラスの大学現役進学率を誇るとともに、海外研修や海外大学への進学にも力を入れている新潟県立国際情報高等学校。地域の特性を掘り下げつつ、異文化を理解し、他者と協力できる人材の育成を目指しており、掲げた構想は「【雪国*米どころ*魚沼】の世界発信を通じた人材育成」だ。
校長 玉木 正己 先生
スーパーグローバルハイスクール (SGH) とは
高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とし、外部有識者によるスーパーグローバルハイスクール企画評価会議が審査し適切と認めた当該学校を、文部科学省がスーパーグローバルハイスクールとして指定しています。
ワンランク上のグローバル人材育成を目指して
上越新幹線が通るJR浦佐駅を最寄り駅とする新潟県立国際情報高等学校は、新潟県内で唯一のSGH指定校だ。国際社会に通用する英語力を養う「国際文化科」と、医歯薬系・理工系への進学に欠かせない数学・理科を重視する「情報科学科」という2つの学科を軸に、少人数制でじっくりと指導することにより、1992年創立とまだ若い学校ながらも全国の国公立大学や難関私学に多くの現役合格者を輩出している。また2年次からは、海外大学へ直接進学を目指すコースに所属することもできる。
「本校はアメリカやオーストラリアに姉妹校を持ち、海外の高校生との異文化交流なども積極的に行っています。今回のSGH申請にあたっては、本校の国際的な取り組みをもう一度整理し、ワンランク上のグローバル人材育成を目指していこうとのねらいがありました」と玉木正己校長は語る。
同校が位置するのは「魚沼コシヒカリ」に代表される日本有数の米どころであり、冬は周辺のスキー場に多くの観光客を呼び込む南魚沼市。この地域の魅力や抱える課題を深く掘り下げながら世界に発信することにより、世界各地の課題についてグローバルな視点から考察・提案できる人材を育てていく。SGHのカリキュラムはこうした方針に沿って進められることになった。
活動の基本となる思考力を養い、地域に対する知識を深める
同校のSGH学習は2015年度より、1年生全員を対象にスタートした。まずは生徒の論理的・批判的な思考力を養うために「国際情報クリティカルシンキングプログラム」を実施。一般企業から与えられたミッション(課題)に対してグループディスカッションを行い、校外でアンケート調査などを行いながらさまざまな意見を収集・分析し、課題に対する解決策を考え、発表するためのスキルを身に付けていった。
次に行われたのは地元魚沼の魅力や課題を掘り下げる「魚沼学」だ。最初に同校と協力体制にあり、スーパーグローバル大学でもある明治大学や国際大学の専門家や観光の実務家などを招いてさまざまなテーマで講演を行い、その後は「人口」「観光」「環境」「国際」「農業(産業)」「歴史」という6つのテーマ別のグループに分かれて学習を進めていった。「1年間の農業サイクルやタイ米との違いなど、お米について調べている班が多かったですね。雪国ならではの家の造りや、市町村合併で何が変わり、何が問題として残ったかを調べている生徒たちもいました」と語るのは、英語科の神田貴代子先生だ。
SGH主任 馬場 隆史 先生
「クリティカルシンキングの一環で約35カ国から留学生が集う国際大学でアンケート調査をした際は、英語で積極的に話し掛ける生徒もいました。素直で物おじしないところは本校生徒の特長ですね」。SGH主任の馬場隆史先生もそう振り返る。
生徒の自発性を英語教育がリード
クリティカルシンキングやグループワークにおいて、同校の生徒が自主性や協調性を発揮しているのは、英語の授業で鍛えられてきた部分が大きいと玉木校長は指摘する。英語科の及川智弘先生によると、2013年度より学習指導要領が改訂され、アウトプット中心の授業内容にシフトしたという。「生徒には1年次から『間違ってもいいから積極的に話そう』と呼び掛けるとともに、読んだ内容を書き出し、音読するなど、『聞く・話す・読む・書く』の4技能を統合させる学習を進めてきました。教科書を使った授業でも、例えば水問題など、本文で紹介されているのはほんの一例にすぎません。生徒たちにはインターネットを使って別の水問題やその解決策を調べさせ、英語で発表させるなど、内容にしっかり向き合わせる工夫をしています」と、及川先生は説明する。
英語科 及川 智弘 先生
「英語で取り上げた話題が魚沼学で生き、魚沼学の話題がさらに英語にも…そんな相乗効果も感じます」と語るのは馬場先生だ。「SGHを始めた頃の生徒たちは『誰かがやるだろう』という雰囲気でしたが、今は一人一人が率先して動くようになり、共同作業などにも生徒の成長を感じます」
同校では、年度末の海外研修に参加するための基準を「英検準2級」としており、学年の8割の生徒がクリアしているという。学内全体の英検取得者の増加や3年生のセンター試験の成績を見ても、学習指導要領の成果が表れ始めていると言えそうだ。
自治体との連携や、教職員の指導強化にも期待
生徒たちは1年次の終わりに3班に分かれてアメリカ、オーストラリア、タイへ海外研修に出掛け、自分たちがまとめた魚沼の魅力や課題を現地の学生に英語でプレゼンテーションする予定だ。2年次で英語の論文をまとめ、「魚沼学」の活動は終了。3年次には自分たちの成果を後輩に伝授するなど、学年を超えたピアサポートを行っていく計画もある。
学内にSGH推進委員会を設置し、他校の視察も活発に行いながらSGHの取り組みを模索してきた1年目がもうすぐ終了する。「視察では都会や離島など、さまざまな例を見てきました。本校も雪国ならではのアイデンティティを育てつつ、自分とは違う他者を理解する人材を育てていきたい」と馬場先生。関口和之教頭も、「SGHを通じて南魚沼市の職員と話す機会が増え、市が移住促進や地域おこしなどさまざまな取り組みを行っていると知りました。今後は市と連携を強化するなど、この地域ならではの条件を最大限に生かしていきたい」と抱負を語る。
教頭 関口 和之 先生
さらに「生徒たちは毎日、それぞれに自宅学習の記録を付けており、私も時々目を通し、コメントを書き入れています。今の1年生は日々の出来事の羅列にとどまらず自分の考えをしっかり書いてくるので、読んでいて楽しいですね」。玉木校長が言葉を添える。そして、「本校には海外大学進学コースがあり、一方でSGHがあり、今はそれぞれ別に動いていますが、今後はそれらをうまく融合させていけたらと考えています。SGHは英語でのプレゼンテーションや論文をゴールとしていますが、英語科の先生だけではなく、課題の設定などに他の教科の先生方にも参加していただき、『こんな生徒を育てよう』という議論を活発に行うことによって、グローバル人材の育成が進むのではないかと思います」と締めくくった。
出典:『英語情報 2016年 春号』P34・35
(公益財団法人 日本英語検定協会 発行)