幼稚園から高校までを「1つの学校」と捉え、国際的に活躍できる次世代リーダーの育成・輩出を目指している玉川学園(東京)。スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定を受けた現在は、新設の講座や自由研究、既存の選択科目などを有機的に結び付けながら、国際機関へキャリア選択する人材の育成に挑戦している。
「ヨーロピアンスタディーズ」(海外研修)でスイスの国連本部を訪問
スーパーグローバルハイスクール (SGH) とは
高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とし、外部有識者によるスーパーグローバルハイスクール企画評価会議が審査し適切と認めた当該学校を、文部科学省がスーパーグローバルハイスクールとして指定しています。
教育信条に基づき、SGH研究課題を決定
玉川学園には1929年の創立以来、国際教育に取り組んできた歴史がある。現在は年間250名近い生徒を海外に派遣する一方、約200名の留学生を受け入れている。
また、国際バカロレア基準に則ったカリキュラムを取り入れ、国語・音楽・体育以外の全科目を英語で教えるIB(国際バカロレア)クラスを設置するなど、グローバルスタンダード化にも積極的に対応している。
今回のSGH申請に当たっては、教職員の間で話し合いがもたれた。
「大きく2つの方向性があると話しました。1つは国際ビジネスで活躍できる人材の育成、もう1つはノンプロフィットの国際機関で活躍できる人材の育成です」とSGH主任である硤合宗隆 先生は振り返る。
SGH主任 硤合宗隆 先生
同校の教育信条には『地の塩、世の光』という聖書の一節がある。それを踏まえたとき、国際連合などの国際機関や国際NGOで活躍できる人材の育成がふさわしいとの判断に至った。
国際機関では英語ができることは当然として、法学や農学、ITなど自身の専門分野がなければ務まらない。
そのため、高校生のうちから世界について関心や問題意識を持たせることで、大学の学部選択につなげ、将来的に国際機関を志す人材を増やしていきたい。
研究課題である「国際機関へキャリア選択する全人的リーダーの育成」は、こうして決定された。
独自の選択制カリキュラムで問題意識の高い生徒を育成
SGH活動の中軸をなす「グローバルキャリア講座」
同校のSGHプロジェクトは、中学3年から高校3年までの4年間を対象としている。
まずは「基礎養成ステージ」を全員が履修。
自然の中でグループとして課題に取り組む「玉川アドベンチャープログラム(TAP)」や、新設の「グローバルキャリア講座」などを通じて、コミュニケーション力やリーダーシップ、世界が抱える課題への関心を養う。
その後は、さらに具体的なテーマを選び、理解を深める「課題探究ステージ」へと進む。
課題探究には多くの国際機関の活動フィールドである「A. 貧困」「B. 人権」「C. 環境」「D. 外交(リーダーシップ)」「E. 国際協力」の5つの研究テーマ群があり、生徒たちは選んだ研究テーマに紐づく授業や講座、研修に任意参加するという仕組みだ。
例えば「B. 人権」に興味のある生徒は、ボツワナや南アフリカを訪問して現地の人々と交流する「アフリカンスタディーズ」という海外研修や「模擬国連」に参加するほか、自由研究の「グローバル・スタディーズ」で諸問題の現状を調べ、展示会や講演会の運営などを担当し、最終的には研究論文をまとめるという。
海外支援の現場を訪れる「アフリカンスタディーズ」(海外研修)
「これは本校SGHの特色でもあるのですが、SGH専門のコースの新設は行わず、生徒全体がSGHの恩恵を受けられる体制を維持しながら、一部の“エリート”も育てる形をとりました」と硤合先生。
「そのため、既存の選択科目や研修をSGHの関連科目とし、履修を促すスタイルになりました。生徒の自主性に任せる部分が多くなりましたが、それでも昼休みにお弁当を食べながら行う30分間の講義には毎回100名近くの生徒が集まるなど、意識の高さを実感しています」と述べる。
英語力を高める取り組みも強化
SGHの関連科目は英語で実施されるものも多い。
例えば公民科選択授業の「World Studies in English」や、スーパーグローバル大学に選出されている立教大学との連携による講義「Super Global Summer Course」などはいずれも英語で行われ、「模擬国連」も一部英語で開催される。
国内外から講師を招いて行う「グローバルキャリア講座」にも、通訳付きで実施する回がある。英語での授業に慣れたIBクラスの生徒が多く参加しているものの、一方で、普通科に在籍している生徒の英語力を高めることもSGHにおける大きな課題だ。
「英語の授業ではインプット作業だけではなく、アウトプットさせる訓練にも重点を置いています。SGH関連科目でもある英語会話の授業では、昨年のサッカー・ワールドカップの参加国の中から好きな国を選んで自分の言葉で紹介させたり、将来どんな仕事に就きたいか、それが実現したらどんなことをやりたいかを自由に発表させたり、といったことをしています。語るテーマはネイティブの先生にも協力を仰ぎ、アイデアを出してもらっています」と英語科主任の前田則文先生は話す。
英語科主任 前田則文 先生
SGHのスタートに合わせ、あらためてレシテーションコンテストやスピーチコンテストにも力を入れ始めたという。
「本校は帰国子女も多く、一人一人の英語レベルや英検レベルはバラバラです。でも友達のスピーチやプレゼンを見て、大いに刺激を受けてほしい」と前田先生は狙いを説明する。
「キャンパス内には留学生も多く、彼らと片言でもコミュニケーションを取ろうとするなど、生徒たちにはもともと外国人に対する抵抗はありません。今後は英語に触れる機会をさらに増やして、英語力を底上げしていきたい」と硤合先生も付け加える。
ローカルな問題にも目を向けることで世界とのつながりを見つけ出す
SGHプロジェクトを始めて1年。課題は多いものの、生徒たちは彼らなりにいろいろなチャンスをつかみに来ていると硤合先生は語る。
「私のところにも毎年、国際活動に挑戦したいという生徒が相談に来ます。しかし、まだまだ国際機関や国際NGOへのキャリアパスのイメージが足りず、進学先の学部選択にも偏りがあるのが現状です。国際機関ではありとあらゆるフィールドの専門知識が役に立ちます。そうしたことも高校時代に伝えていきたいのです」
昨年、同校の取り組みを第三者目線で評価してもらった際、参加者から「ローカルな活動とグローバルな活動をつなげる必要性」を指摘されたという。国際機関というと、環境問題や貧困、児童労働など、つい海外に目が向くが、実はすぐ身近にも同じ根を持つ問題が存在する。
今後は生徒たちの関心をそういった問題にも向けさせ、地元ではどのような活動を行っているのか、調べる機会も増やしていく。成功事例が見つかれば、世界に発信もしていく。
「日本人はまだまだ国際機関でできることがあると私は考えています。本校にも世界に通用する生徒はたくさんいます。これはまったくの私見ですが、SGHを続けることによって、高等部卒業後、大学生で国際機関でのインターンシップへ挑戦し、将来自分の力を世界の課題解決のために役立てようという気概を持った人材を毎年輩出していきたいと考えています。まずは、そういうチャレンジをする生徒を増やしていくことが大切です」。硤合先生はそう締めくくった。
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