文武両道で県下有数の進学校、兵庫県立姫路西高等学校。スーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受け、「国際社会や地域社会に貢献できる人間の育成」を目指して掲げた構想は、「リベラル・アーツプロジェクト~世界に飛翔するグローバル・リーダーの育成~」だ。
スーパーグローバルハイスクール (SGH) とは
高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とし、外部有識者によるスーパーグローバルハイスクール企画評価会議が審査し適切と認めた当該学校を、文部科学省がスーパーグローバルハイスクールとして指定しています。
地域の期待に応えて魅力ある学校づくりを
創立137年目を迎えた姫路西高等学校は、県下有数の進学校だ。毎年、約280名を出し、卒業生のうち東京大学や京都大学、大阪大学、神戸大学の進学者が100名近くを占める。
文武両道で、部活動の加入率は95%以上。近畿大会や全国大会での活躍が目覚ましい。何事にも意欲的に取り組み、「がんばる仲間を応援する」土壌が根付いている。
同校が地域から寄せられる信頼や期待は高い。「伝統校として培ってきた独自の教育を守りながらも、グローバル時代に、社会が求める人材育成の必要性も受け止めています。近年は、より魅力にあふれる学校としての将来像を構築しようと、学校改革に力を注いできました」と木村篤志教頭は話す。
教頭 木村篤志先生
「豊かな人間性と幅広い学力を兼ね備え、グローバル・リーダーとして国際社会や地域社会で世のため人のために貢献できる人間を育成する」という教育方針のもと、大学や企業、姫路市などと連携し、人的資源の開発や人材育成のシステムづくりを担う。SGH申請は、学校改革の一環だった。
4つの柱に基づいて発展的に学ぶ
構想名は「リベラル・アーツプロジェクト ~世界に飛翔するグローバル・リーダーの育成~」だ。人文科学・社会科学・自然科学の各分野を深く学んで習得した高い専門性を基盤として4つの柱に基づき、3年間を通して発展的に学ぶ。
①「知」の創造
世界遺産の姫路城や地元企業を活用した課題研究等により、課題設定の俯瞰力、論理的思考力・問題解決能力の育成
②「知」の育成
海外の高校や大学との連携、地域資源を活用した国際交流事業の実施、語学力・コミュニケーション能力・発信力の育成
③「知」の養成
英語プレゼンテーション・ディベートによる国際的視野・感覚等の養成
④「知」の拠点
地域の大学、高校との研究活動等によるキャリアプロジェクトの実践・拠点づくり
①がSGHの中核となる「課題研究」だ。
文系・理系を問わず、選抜された各学年50名程度の生徒が取り組む。「世界都市の構築とネットワーク化」「ビジネスのグローバリゼーション」「持続可能な国際社会の構築」「歴史ツーリズムと国際観光開発」の4つの枠組みの中から、生徒各自が研究テーマを選ぶ。
研究するにあたり、④も関連付け、東京大学・京都大学・大阪大学・一橋大学との連携による講義や、教授・大学院生・留学生との意見交換、姫路市に本拠地を置くグローリー株式会社や株式会社西松屋チェーン、姫路市役所などの講話も開催した。
生徒たちは、海外のビジネスプランや国際問題、地域活性化などの課題を探り、解決の方法論を学ぶ。今年度は、地域の県立高校3校と連携してフィールドワークや調査統計を行い、共同研究を進める。
②では「国際交流戦略プロジェクト」に取り組んでいる。
夏休み期間中の2週間のオーストラリア研修の際、西オーストラリア州立大学での語学研修のほか、姉妹校のロスモイン高校の生徒たちとフィールドワークやグループワークを行い、課題研究に基づいた交流を深めた。
春休み期間の11日間のアメリカ研修では、国連フォーラムや国連職員とのワークショップ、ハーバード大学の授業の聴講、マサチューセッツ工科大学博物館でのワークショップに参加したほか、ボランティア活動や社会貢献について学ぶために、マサチューセッツ非営利法人組織ネットワークを訪問した。
問題発見・解決能力や表現力・発信力が高まった
③として、課題研究の成果発表の場も設けた。
課題研究での4泊5日の京都大学研修やハーバード大学生来校時のプレゼンテーション、オープンハイスクールでの中学生に向けたプレゼンテーションなどのほか、生徒各自が選んだ課題に関するスピーチコンテストも行った。
さらに、県内の高校との連携によるディベートや各種英語コンテストにも参加し、身に付けた知識を基盤として、論理的思考力や発信力を高めている。
企画推進部長 藪内章彦先生
企画推進部長を務める藪内章彦先生は、この1年間を振り返り、「生徒たちは課題研究を通じて、問題発見・解決能力を高め、主体的に学ぶ姿勢を身に付けている」と実感している。SGHの取り組みにより、大学や企業、地域の人々を前に発表する機会が増え、表現力や発信力も高まったという。
「海外研修の場でも、ハーバード大学の学生たちを前にしても臆することなく英語で発言していました。そして、自身の知識不足を痛感して、さらに学習意欲を高めたようです」と、SGHへの取り組みがもたらした効果について述べた。
生徒の将来を見据えた教育を
「SGHの取り組みは、人的ネットワークなくして進まなかった」と藪内先生が語るように、国内外の大学・地元企業・姫路市との連携が、研究を支えてきた。「生徒たちは、答えのない問いと対峙し、多面的に物事を見つめ、課題解決の方法を模索しています。
時には、壁にぶつかることもあります。そうした時は、大学教授や企業人など、専門家から適切な助言を受け、発想を転換して壁を乗り越えてきました」。教室では体験できない“生きた”学びを経験し、生徒たちは大きく成長している。
その一方で、進学校として、大学進学実績という「結果」を求める声も少なくはない。
「難関大学への進学を期待して入学する生徒も多いため、保護者からの要望は高いのですが、今後は、大学入試も変わっていきます。東京大学や京都大学などで推薦入試が導入され、論理的思考力や高校での活動実績も評価されます。SGHの学びが大学進学の際に大いに役立つでしょう」と藪内先生は期待を寄せる。
生徒たちは、自分たちが取り組んでいる研究が、国際社会や地域社会の課題解決の糸口になると実感し、社会貢献への意識を高めている。
木村教頭は「生徒たちは得がたい経験をしています。たとえ失敗しても、自ら考え、主体的に動いた経験が成長をもたらします。私たちは生徒の5年先、10年先を見据えて、これからの日本を背負って立つ人間を育てていきたいと考えています」と力強く語った。