イギリスのオックスフォード大学出版局は毎冬、「今年の流行語」を発表しています。この数年、政治色が強いワードが選ばれていた同賞ですが、2018年もやはり政治的ニュアンスを含むワードが選ばれました。
© Oxford University Press
毎年12月に発表される「ユーキャン新語・流行語大賞」の2018年 年間大賞は「そだねー」でした。不寛容といわれる現代日本社会において、あたたかな風を吹き込んだことが受賞理由の一つです。この発表に和んだ方も多かったのではないでしょうか。
さて、イギリスでも毎冬、オックスフォード大学出版局が「今年の流行語」を発表しています。
昨2017年は「Youthquake」 (若者の行動や影響から生ずる著しい文化的、政治的、社会的変化)、2016年は「Post-truth」 (客観的な事実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況) でした。
いずれも政治色が強いワードで、ヨーロッパ連合からの離脱や選挙が影響したと見られています。
過去記事:【2017年】英•流行語大賞は「Youthquake」、2017年も政治色濃く
過去記事:【2016年】イギリスの流行語「Post-truth」が意味すること
Word of the Year 2018に選ばれた言葉
では、2018年のイギリスの流行語大賞、「Word of the Year 2018」は…?
toxic (有害な,有毒な)
この受賞ワードは、日本人の耳に馴染みがないかもしれません。オックスフォード大学出版局によると、「toxic」もこの数年のワード同様、社会色や政治色が強いワードだとしています。
「toxic」からうかがえるイギリスの世相
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「toxic」は形容詞です。2018年のイギリスでは、このワードが様々な単語に付けられたり、文脈で使われたりしました。
- toxic waste (有毒廃棄物・ゴミ)
- toxic workplace (有害な職場)
- toxic relationship (害のある関係)
このように、toxicは「有害な」「人に害を及ぼす」といったネガティブな意味で、社会問題・政治問題のほか、あらゆる物事や状況とセットで使われました。オックスフォード大学出版局は、oxforddictionaries.comで検索された同ワードの回数が前年に比べ45%も増加したことを発表しています。
また、2018年に「#MeToo運動」* が流行し、こういった事件を起こす男性が「toxic masculinity」(有害な男らしさ) と批判されることもありました。
イギリス人にとってこのワードは、自分がターゲットとした物事や状況を批判する際、とても便利だったことがうかがい知れます。同時に、このネガティブワードが席巻していた2018年のイギリス社会は、この数年同様、暗さや攻撃的な雰囲気が強かったことも見えてきます。
イギリスは2019年3月29日にEUから離脱するという規定を設けています。世界的に注目されるEUから離脱がイギリス社会にどういう影響を与えるのか。2019年の英・流行語大賞からも目が離せません。
* #MeToo運動 ー「私も」を意味する英語にハッシュタグを付けてSNSで公表する運動。女性たちがセクハラや性的暴行、パワハラなどの被害を告白した。
他の候補ワードリスト
Word of the Year 2018の他の候補は10ワードありました。全てがtoxicとセットで多く使われたワードとなりました。これらのワードからも。2018年のイギリスの世相を垣間見ることができます。
Chemical (化学薬品)
ロシアの元スパイと娘の殺人未遂事件に使われたとされる神経剤が、ロシア製とされたことがイギリスで波紋を呼んだ。toxic chemical (有毒な化学薬品)。
Masculinity (男らしさ)
女性偉人伝ブームや#MeToo運動と連動し、男性権力等の俗に言う「男らしさ」を否定的に見るワード。toxic masculinity (有害な男らしさ)。
Substance (物質)
toxic substance (有害物質)。toxicとセットで多く使われたワード。
Gas (ガス)
toxic gas (有毒ガス)。toxicとセットで多く使われたワード。
Environment (環境)
toxic Environment (有害な環境)。toxicとセットで多く使われたワード。
Relationship (関係)
toxic relationship (害のある関係)。toxicとセットで多く使われたワード。パートナー、両親、職場、政治など、様々な「関係」に対して。
Culture (文化・習慣)
toxic culture (有害な文化・習慣)。toxicとセットで多く使われたワード。企業文化の腐敗によって、過度な労働や性的な嫌がらせが多発。
Waste (廃棄物)
toxic waste (有害廃棄物)。toxicとセットで多く使われたワード。
Algae (藻)
toxic Algae (有毒な藻)。toxicとセットで多く使われたワード。米国フロリダ沿岸に生息するマナティーが大量死したことから。神経系に作用する毒素を持った「藻」の大発生などが要因。
Air (大気)
有毒廃棄物の燃焼による毒性ガスの放出で、「大気」が汚染される。
Oxford Dictionaries | Word of the Year 2018: the shortlist より