メディアはトランプ旋風を「トランプショック」と置き換えて連日アメリカ政府の動向を伝え、世界中の人々がアメリカ大統領の一挙手一投足に注視しています。
世界からの注目度は、大統領選挙戦でにわかに高まりました。2016年のアメリカの流行語は、混乱の選挙戦から生まれたものでした。
2016年のアメリカの流行語は…
アメリカでは流行語(WORDS OF THE YEAR)を発表している団体がいくつかありますが、最も歴史が長いのは「American Dialect Society(ADS)」です。この賞はその年の翌1月に発表されており、2016年の結果は1月6日に発表されました。
ちなみに、2015年の流行語は、人権が大きな社会問題になっているアメリカらしく、性的マイノリティーをの人々を指すときに性別を特定しない三人称単数の代名詞としての「They(単数のゼイ)」。
2014年は、米ミズーリ州での白人警官による黒人青年射殺事件を受けての「#blacklivesmatter(黒人の命は重要)」。SNSでハッシュタグ付きのこの言葉が拡散されました。
2015年の結果は、以前に下記でまとめました。
過去記事: 海外の「流行語」から考える、日本人と英語
さて、ADSによる2016年の流行語は、選挙戦から生まれたこの言葉となりました。
dumpster fire 「ダンプスター火災」
アメリカ国民の1年間の不安と嫌悪感を表現したこの言葉。それは「dumpster fire(ダンプスター火災)」でした。
ダンプスター火災?
日本人にはピンとこない言葉かもしれませんね。「dumpster」は、海外の路上でよく見られる大型のゴミ箱、ゴミ集積箱の商品名のこと。
「dumpster fire」は、「とても悲さんな状況や混沌とした状況を表している」といえます。この言葉をよく使い、広めたアメリカ国民にとって「悲惨な状況や混沌とした状況」とは先の大統領選挙であり、選挙結果のことです。
ADSは、この言葉を次のように、非常に風刺が効いた言葉で解説しています。
As 2016 unfolded, many people latched on to dumpster fire as a colorful, evocative expression to verbalize their feelings that the year was shaping up to be a catastrophic one.
「2016年に展開された、年が壊滅的なものになっているという感情を彩った表現として、多くの人々は大型ゴミ箱の火事ととらえた」
In pessimistic times, dumpster fire served as a darkly humorous summation of how many viewed the year’s events.
「ダンプスター火災は、この年の悲観的な出来事を見ている人たちを暗くユーモラスな形でまとめた言葉だった」
各賞受賞ワードから見える2016年のアメリカ
ところで、ADSは「WORDS OF THE YEAR (流行語大賞)」だけでなく、他にも「ハッシュタグ賞」「クリエイティブ賞」など、毎年約8部門(2016年は10部門)の賞があります。
以下で、各カテゴリの受賞ワードとノミネートワードを簡単に紹介します。「*」マークがついているものが、カテゴリーの受賞ワードとなります。
WORDS OF YHE YEAR
dumpster fire 「ダンプスター火災」*
悲惨な状況や混沌とした状況(アメリカの大統領選挙、選挙結果)を、集積箱に入ったゴミが燃えている様子に例えた語。
normalize 「正規化」
以前ではあり得ないようなことが日常的に起こっているためこの単語がノミネート。
post-truth 「ポスト真実」
客観的な事実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況。
過去記事: イギリスの流行語「Post-truth」が意味すること
woke
アフリカ系米国人が社会の不公平や、特に人種差別を認識させるための表現。同性愛差別問題も含まれる。
#NoDAPL
ノースダコタアクセスパイプライン建設への抗議を表すハッシュタグ。
POLITICAL WORD OF THE YEAR
deplorables (basket of) 「嘆かわしい」
トランプ氏のサポーターについての演説でクリントン氏が使用した形容。
nasty woman 「嫌な(きたない、たちの悪い)女性」
トランプがテレビ討論会でヒラリー・クリントン氏へ向けて放った言葉、「Such a Nasty Woman」から。世界中の人々から非難を受けている。
Pantsuit Nation
ヒラリー・クリントン氏をサポートする団体名。
post-truth 「ポスト真実」*
客観的な事実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況。
過去記事: イギリスの流行語「Post-truth」が意味すること
unpresidented
トランプ氏がTwitterに投稿し、痛恨のスペルミスとして話題になった単語。「前代未聞の」という意味の「unprecedented」と、「大統領としてふさわしくない」という意味を持つ「unpresidential 」に似た、実在しない単語に書き間違えた。
DIGITAL WORD OF THE YEAR
fam
「家族(Family)」の略語ですが、家族ではなく、友達や仲間に使う単語。
Harambe 「ハラムベ」
シンシナティ動植物園で飼育されていたオスゴリラの名前。ハランベの居住エリアに子どもが落ちたところハランベは動物園職員に射殺され、射殺の是非を巡って論争となった。
Tweetstorm 「ツイートストーム」
特定の話題に関するツイートを一斉に投稿し、その話題でTwitterを席巻する行為。偏った感情的なツイートも含まれる。
@ 「アットマーク」*
動詞として使用。@記号を使ってTwitterに返信する行為。
SLANG WORD OF THE YEAR
fire
形容詞として使用。「クール」「楽しい」「スタイリッシュ」といった意味。
receipts 「領収書」
slay
通常は「殺す」を意味するが、「上手くできている」といった何か素晴らしいことをしている表現を指す。
woke *
アフリカ系米国人が社会の不公平、特に人種差別を警告するための表現。
MOST USEFUL/LIKELY TO SUCCEED
chip 「チップ」
ICチップリーダーに銀行カードを挿入する動詞。クレジットカードのIC対応に出遅れたアメリカならでは。
gaslight 「ガスライト」*
マスメディアがトランプ氏についての批判記事で使用した言葉。心理的虐待の一種であり、被害者にわざと誤った情報を与え、被害者が自身の記憶や知覚を疑問視するよう仕向ける手法。語源は映画タイトルです。
normalize 「正規化」
以前ではあり得ないようなことが日常的に起こっているためノミネートされました。
turn up 「めちゃくちゃ盛り上がる(楽しむ)」
MOST CREATIVE
-exit
英国のEU離脱「Brexit」、カリフォルニア州を米国から独立させようという運動「Calexit」。これらの「○○○exit」といった形式を指す。
facticide
事実を抹殺または歪曲すること。
gynotician
婦人科医「gynecologist」と政治家「politician」を組み合わせた造語。女性軽視や差別問題がが色濃く反映された言葉です。
laissez-fairydust *
レーセッツ - フェアリーダスト経済(自由放任経済)によってもたらされる魔法の効果。
EUPHEMISM OF THE YEAR
alt-right 「オルタナ右翼」
政治の主流派を拒絶し、意図的に論争のコンテンツを広める、極端に保守的なイデオロギーグループ、または思想傾向。
fake news 「偽ニュース」
誤った情報や、デマ情報。トランプが特定のメディアに対して放った言葉。
locker-room banter 「ロッカールームの会話(冗談)」*
トランプ氏が女性軽視発言問題を追求された際に発言。スポーツ選手たちの怒りを買いました。
small/tiny hands 「小さな/小さな手」
トランプ氏の発言「Look at those hands. Are they small hands?」から。
その他にも下記のようなものが流行語となりました。ここからは受賞ワードのみ解説を入れています。
○○○ WORD OF THE YEAR
bigly *
トランプ氏が討論会において発し話題となった単語。「最高水準の、一流の」を意味する形容詞「big league」が正しいものとみられ、biglyは聞き間違いとされている。
yuge
*一部変更/割愛
HASHTAG OF THE YEAR
#blackgirlmagic
#NoDAPL *
ダコタアクセスパイプラインの建設に対する抗議として使用されている。
#OscarsSoWhite
*一部割愛
EMOJI OF THE YEAR
「raising hands 」
「raised fist」
「upside-down face」
/ 「fire/dumpster fire」*
WORDS OF THE YEARの「ダンプスター火災」の絵文字バージョン。
言葉は今を生きる人が使うため、流行語を知ることで、そこで生活する人々の様子や状況を把握することができます。
トランプ大統領の話題は尽きそうにありません。次回のアメリカの流行語も、政治がらみのワードになるのでしょうか。