言語で人格が変わる? 多言語習得の本当のメリット

堤谷 孝人

子どもが英語を使えることで、将来的にコミュニケーションの領域が広がることは誰にでも分かります。しかし、メリットはそれだけではありません。

言語で人格が変わる? 多言語習得の本当のメリット

 

今回はあまり知られていない、多言語を習得することの“もうひとつのメリット”についてご紹介します。

 

 

日本語と英語の違い

 

日本語に親しんだ日本人が新しく英語を学ぶ場合、困惑することがいくつかあります。

 

まず、母音の数が違います。日本語は「あ」「い」「う」「え」「お」の5音ですが、英語は30音近く。日本語にない母音の発音は、慣れるまでに時間がかかります。

 

子音についても、日本語で発する場合は基本的に音を伴うのに対し、英語では「スーッ」「ハーッ」といった無声音をよく伴うため習得に時間がかかります。

 

 

また、英語には必ず「主語」が必要ですが、日本語は知らず知らずのうちに省略している場合が多々あります。

 

例えば、学校から帰ってきた子どもが母親に言う「お腹空いたー」。「私は」という主語を抜いたこの表現は、日本語だからこそ通じるものです。

 

 

さらに、文法の違いも戸惑わせます。

 

日本語は主語、目的語、述語の順番に並びます。文の主役が「どんな行動を起こす」のかは、基本的に話を最後まで聞かないとわかりません。肯定文か疑問文か、否定文かといった重要な情報についての理解も同様です。

 

しかし、英語では主語の次に述語が並ぶため、文の主役が「どんな行動を起こす」か、そして肯定文・疑問文・否定文といった重要事項が、話の早い段階で理解できます。

 

 

ところで、推論の方法として演繹法帰納法が知られています。

 

演繹法

演繹法は一般的原理(正しいとされていること)から個々の事柄の正しさを推論する方法です。代表的な 手法に、大前提・小前提・結論による三段論法があります。

 

帰納法

帰納法は個々の事実から一般的原理を導く推論です。使い方では、「一般的原理として正しい」と証明したいことを仮説に立てます。

 

問題解決手法の紹介と解決力をつける より

 

 

「タイム・イズ・マネー」であるビジネスの場においては、話の全容がすぐに理解できる帰納法が好まれる傾向にあります。

 

特に、英語に慣れ親しんだ英語圏のビジネスパーソンが比較的得意とする論法といわれており、これも日本語と英語の文法の違いによるものといえます。

 

 

 

使う言語の違いで人格が変わる?

 

海外のサイエンス誌「Psycological Science」で、興味深い研究結果が発表されています。それは、「使う言語によって、同じ事象でも着目する部分や表現のしかたが変わる」というもの。

 

実験の内容は単純で、英語を母国語とする被験者群と、ドイツ語を母国語とする被験者群に「自動車の方向に向かって歩く人物の動画」を観せ、その様子を言葉で説明させるというもの。

 

言語で人格が変わる? 多言語習得の本当のメリット

 

結果は、英語群が「人が歩いている」と説明したのに対し、ドイツ語群は「自動車に向かって歩いている人」と答えました。英語に比べ、ドイツ語は人物の行動と共に目的も併せて表現する特徴が違いを生んだのだと考えられています。

 

さらに興味深いことは、英語もドイツ語も話せるバイリンガルに試したところ、直前に使っていた言語で人格が変わるがごとく答えに同様の差が出たということです。

 

これによって証明されたのは「バイリンガルの行動や世界の捉え方は、そのときに使っている言語に依存する傾向がある」ということ。多言語を習得することのあまり知られていないメリットとは、まさにこれ。言葉の組み立て方だけではなく、思考そのものの多様性が広がるということなのです。

 

 

 

日本語を先にしっかりと身につけさせるべき?

 

学校教育で英語の早期教育化が進められつつある中で、否定派の代表的な意見として「先に日本語をしっかりと教えるべきだ」というものがあります。

 

先述したように、思考にまで影響があるとすれば、この意見に賛同する人もいるでしょう。つまり、「日本語圏の考え方や価値観を定着させることが先決だ」ということです。

 

しかし、英語の早期教育化を肯定的に捉えることもできます。

 

教育に詳しい大学教授など関係者に言わせると、「周囲が日本語の環境で、週にたった数時間という条件で、日本語の修得に悪影響を及ぼすことはほぼ無い」とのこと。

 

むしろ、英語に触れることで表面上の文章表現だけではない英語圏の思考を感じ取り、海外への興味や関心、学びへの意欲につながるという意見すらあります。

 

このように考えると、多言語の習得は、さまざまな意味で子どもにとって将来性を豊かにするものだといえるのではないでしょうか。

 

 

 

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